大学におけるIRとは?あり方を問う【プロジェクト・アウトのIRへ】

近年、大学において、「IR」という活動が盛んになってきている。しかしながら、IRという言葉を積極的に定義し、能動的に活用できている大学は多くない、というのが実情である。

単純化して言えば、大学におけるIRとは、組織内の情報や数値データを収集し活用することである。

実体の見えづらいIRという活動の本質は何か、そして、大学のIR活動はどうあるべきなのか・・・。

このページは、大学のIR活動のあり方について、「プロジェクト・アウト」のIRという考え方を提示するものである。

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大学におけるIRとは何か?

そもそも、大学におけるIRとはいったいどのような内容を指しているのであろうか。調べてみても、確たる明確な定義が存在しているわけではないようである。

IRとは、Institutional Researchの略である。Institutionalは「組織・機関」を指すInstitutionを形容詞化したものである。Researchは「調査」や「研究」という意味を表す。つまり、言語的にはIRは組織に関する調査・研究を指している。

また、IRについて調べてみると、「情報」「(数値)データ」といった言葉を頻繁に見かける。IRのひとつの側面として、組織内の情報や数値データを収集することを目指していることが分かる。さらに、「経営に活かす」「情報を提供する」といった文言も多く見られる。これらの記述から、IRは収集した情報やデータの活用をも意図した活動であることが分かる。

以上を踏まえると、IRの本質は、「組織内の情報や数値データを収集し活用すること」とまとめることができるだろう

各IR活動の目的意識の明確化

前章では、IRを「組織内の情報や数値データを活用し収集すること」と結論付けた。続く本章では、それぞれのIR活動がどの方向を向いており、何のために行われているのかを確認しておくことの重要性について見ていく。

IR活動の2つの方向性

まず考慮すべき視点として、IR活動が「外」を向いているのか「内」を向いているのかという、2つの方向性が存在することを確認する。

IR情報の活用には、大きく2つの方向性がある。1つは「外部向けIR」である。外部向けIRは、情報や数値データを用いて外部のステークホルダーに働きかけを行う活動である。IRと関連してよく見かけるキーワードに「内部質保証」があるが、これは内部の情報やデータを用いて外部のステークホルダーに安心を提供するという意味で、外部向けIRの範疇であろう。

もう1つは、「内部向けIR」である。内部向けIRは、組織内の活動を改善するために、組織内部の情報や数値データを収集し活用することである。授業アンケートによる授業改善などは、内部向けIRの典型例である。

IR活動にあたっては、そもそもその情報やデータは外部・内部どちらで使用するものかという大まかな方向性を確認しておく必要があるだろう。

何のためのIR活動か

上記のように、IR活動は「外」に向けたものなのか、「内に向けたものなのかは、大まかな分類である。実際にIR活動を行う際には、さらに一歩踏み込んで、「そのIR活動は何のために行っているのか」を明確に意識しておく必要がある。

以上を、「退学理由」という簡単な例で確認する。退学理由の収集が「外部への公表」であるとするならば、「○○というグループ授業で△△というリーダー格の女に目をつけられ、これ以上学校にいられない」といったようにあまりに内容が具体的であると、閲覧者は退学理由のカテゴリを瞬時に把握しづらいだけでなく、マイナスのイメージをも与えてしまう。したがって、「友人関係」のように大まかな枠で分類することになるだろう。

一方で、退学理由の収集が「内部的な退学の抑制」であるならば、上述のような細かく具体的である理由がたくさん集まったほうが、対策を立てやすいだろう。

以上の例のように、IR活動は、「何のために行うのか」という目的によって、収集すべき情報の質や量、さらには解釈の仕方や加工が必要な度合いなどが異なるのである。

つまり、IRと一言で言ってもその内容や目的には広がりがあるため、IR活動を行う際には、「そのIR活動は何を目的とし、どのような情報やデータを収集して、どのように活用したいのか」を常に念頭に置くようにすることで、より効果的なIR活動を行うことができるのである。

IRのあり方を問う!受動的IRから能動的IRへ

最後に、IR活動を受動的な活動から能動的な活動へと転換する必要性について触れておく。

IRに関する情報を収集したり、研修などに参加したりする中で感じるのは、大学は「行政からの要請があるから仕方なくIR活動を行っている」場合が多いということである。

このように受動的な姿勢であると、大学は一般的に他の大学でも収集されている情報をただなんとなく収集し公表するという、ただのIR「作業」をこなす事態に陥ってしまいかねない。他の大学と同じ様な方法で同様の情報を羅列しただけでは、よほど何か抜きん出た数字がある場合を除いては、外部へのポジティブな効果はほとんど望めない。

このような状況を避け、他大学からリードを奪うためには、「能動的なIR」が必要であろう。能動的なIRとは、大学のあるべき姿とその成果を指標として定め、それらの定性的・定量的な目標を達成し経営改善や外部発信に活かすことである。

山梨学院短期大学の例:「大学教育再生加速プログラム(卒業時の質保証)」

能動的IR活動を実行している例として、「私立短期大学教務担当者研修会」で発表のあった、山梨学院短期大学の取り組みを紹介したい。

山梨学院短期大学では、平成28年度文部科学省採択の「大学教育再生加速プログラム(AP)」の[卒業時の質保証]というテーマで取り組みを行っている。

本プログラムは、名称の通り、学習成果を可視化し、卒業時に学生の質を客観的指標で保証しようとするものである。以下に本プログラムのイメージ図を添付している。

山梨学院短期大学のIRイメージ画像

山梨学院短期大学の学修成果の可視化
――山梨学院短期大学「PROPERTIES」より

本プログラムでは、例えば以下のようなことを実施している。

  • 外部の専門家による学習成果の評価と、学生個人の成績情報への反映
  • 「ボランティア・パスポート」―地域施設と連携したボランティアの必修化による、総合的人間力と地域貢献意識の醸成
  • 製菓衛生士や栄養士など公的試験の合格率100%を目指す→達成
  • 「学習時間」を再定義し、授業外実学習時間目標を設定→学習時間が取り組み前の3倍に
  • 「総合的人間力」、「専門的実践力」、「専門的知識」の3つの学習成果を客観的に可視化するレーダーチャートの作成 ・・・など

外部専門家による評価試験やレーダーチャートによる学習成果の可視化などの先進的取り組みが紹介され、発表後には大きな拍手が送られた。

以上の取り組みで特筆すべき点は、自ら追求すべき指標を具体化し、それらを追求し理想とする大学の姿に近づく過程で、より有益な情報や数値データを自らの手で創造しているということである。このように、教育行政に押し付けられる形でなく、自らありたい姿を設定した結果として有益な情報や数値データを創造し活用することこそが、IRの究極的なあるべき姿であろう

アドミニストレーション・インからプロジェクト・アウトのIRへ~退学防止プロジェクトを例に~

では、実際に能動的IRを実現するためには、どのような取り組みを行っていけばいいのだろうか。本稿では、「アドミニストレーション・イン」から「プロジェクト・アウト」のIRへの転換を提言したい。

「プロジェクト・アウト」という考え方を説明するためには、前提としてマーケティング用語の「プロダクト・アウト」、「マーケット・イン」という考え方を理解しておく必要がある。

「プロダクト・アウト」とは、製品やサービスを市場に展開する際に、自社の考え方やリソースを出発点として製品やサービスを展開する考え方である。一方で、「マーケット・イン」は、市場のニーズを出発点として製品やサービス展開を考えようとするものである。一般的に、マーケティングにおいては、プロダクト・アウトではなくマーケット・インの考え方を取り入れることが奨励される傾向にある。

そして今回の「アドミニストレーション・イン」、「プロジェクト・アウト」とは、「プロダクト・アウト」、「マーケット・イン」の捉え方を大学に適用したものである。

「アドミニストレーション・イン」とは、教育行政によって強いられたやり方に受動的に適応していく運営方法である。一方で、「プロジェクト・アウト」とは、大学のあるべき姿を実現するために必要なプロジェクトを一つひとつ形にしていくことで、行政から押しつけられるのではなく大学のありたい姿に向かって能動的に成果を生み出していく運営方法である

一般的に、大学の運営は文部科学省などの行政からの要請に対して受動的・事後的に対応する「アドミニストレーション・アウト」の運営になりやすい。もちろん、行政からの要請にきちんとこたえることで補助金などを獲得することは、組織運営上不可欠な行為である。

しかしながら、「アドミニストレーション・アウト」の後手対応に終始していては、他の大学との差別化は難しい。必要がある部分では、自らプロジェクトを立ち上げることで、大学の思い描く独自の姿を実現していかなければならない。

以下は、ある大学の「退学防止プロジェクト」の例である。この退学防止プロジェクトでは、以下のような議論がなされた。

  • 実質的に退学率を削減するため、対象学生、時期を絞って、直接的な働きかけを行う。次年度新入生に対し、データ分析に基づいた分析を行い、対象となり得る学生を早期に発見する(4~5月頃)。その後6月頃よりプロジェクトメンバーが関係各署と連携を取りながら、本人および保護者に対して直接働きかけを行い、退学を防止する。
  • 上記を実現するために、本年度中に学生カルテの整備を行う。本日提案のあったサンプルに沿って、過去退学者・在校生のデータを整備する。早期発見のための指標について具体的に算出を行い、過去退学者と照らし合わせたときの傾向を確認する。まずは次回までに過去退学者と在校生の数値を入れて算出する。また、学生課で保有する学生情報を紐づける。

上記の議論の中で特筆すべき点は、プロジェクトを立ち上げたことで新たな指標を創出しようという動きが生まれたことである。それは、「早期発見のための指標について具体的に算出を行い、過去退学者と照らし合わせたときの傾向を確認する」という部分に表れている。

つまり、IRに不可欠な組織運営上の情報や数値データというものは、具体的な目標達成を追及し、そのために必要な指標等を明確化することによって、どのような情報が必要なのかが明確化され、積極的な収集・活用がなされるのである。言い換えれば、プロジェクトなどの現場の活動と、IR部署の活動とのインタラクションによってこそ、有益な情報や数値データを創出することができるのである。裏を返せば、現場からの問題意識なしには、良いIR活動は生まれにくいのではないだろうか。

以上を踏まえると、IRの情報や数値データの収集や活用は、現場のプロジェクトとの相互作用によって生み出していくべきものである。そうであるならば、退学防止プロジェクトだけでなく、有志による大学改革プロジェクトが立ち上がりやすい環境を整えていくことが、ひいては充実したIR活動の源泉となるだろう。

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この記事を書いた人

大学職員として学生生活を支援する傍ら、大学で心理学を専攻する社会人学生。教育に従事する中で考察したことや、心理学について学んだことなどをできるだけわかりやすくまとめて発信しています。詳細はこちら

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