「大学職員」になりたいという方や、これから「大学事務職員」のプロフェッショナルを目指していきたい方へ・・・
このページでは、某大学で働いている大学職員が、大学職員に求められる役割やプロフェッショナルとして活躍するために求められる能力などについて考察していきます!
※あくまでも個人的な意見であること、ご了承ください。
大学職員(大学事務職員)が担う役割とは?
まず、大学の中で、事務職員はどのような役割を担う存在なのでしょうか?大学設置基準には、大学の事務職員について、以下のように記載されています。
大学は、その事務を処理するため、専任の職員を置く適当な事務組織を設けるものとする。
文部科学省「大学設置基準」より引用
これだけだとつかみどころがない感じがするので、教員との対比で見てみましょう。
大学は、その教育研究上の目的を達成するため、教育研究組織の規模並びに授与する学位の種類 及び分野に応じ、必要な教員を置くものとする。
文部科学省「大学設置基準」より引用
上の文に出てくる「教育研究」という文言は、大学設置基準の教員の項目で何度か出てくる言葉です。このことから、教員の主たる業務が「教育」「研究」であることがわかります。(その他、教員には、教授会や委員会などの会議体で大学の意思決定にも参画する、という側面があります。)
教員の主たる職務内容が「教育」「研究」であるとすれば、事務職員の職務内容の範疇は「教育・研究以外のすべて」と捉えてよいかもしれません。主として、学生及び教員のサポートをする役割と考えると良いでしょう。
大学職員の具体的な職務内容は?
以上を踏まえて、大学職員の具体的な職務内容を、思いつく範囲で列挙してみます。
イメージしやすいのは、教務課や学生課などの、学生向けのサポートを行っている部署だと思います。
そして、大学には、学生と直接かかわる部署以外にも、たくさんの部門から成り立っていることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
大学の組織体系はジョブローテーションが前提
大学は個人事業や中小企業などと比べると組織や関わる人数の規模が大きくなります。そのために、仕事は分業であるのが当たり前です。
行政や大学、大企業などのように、ある程度の規模感があると、一人一人が何らかの専門分野を担当することになります。
ただ、大学のようなある程度大きな組織になると、あるひとつの部署だけを経験しただけでは、大学全体の利益や福祉に貢献する意思決定をすることが困難です。
たとえば、10年以上教務しかしたことがなければ、学生や教員のことばかり考えて事業の採算性などは二の次になってしまうかもしれません。逆に、人事や経理などしか経験しないままでいると、学生や教員の利便性を高めるという視点に欠け、効率性ばかりを追求してしまう可能性があります。
だからこそ、大学では、ジョブローテーションを活発に行います。ジョブローテーションは日本型雇用の遺物だと思われがちですが、少なくとも大学業界には色濃く残っています。(他の大学の人の話を聞いてもほぼ例外なくそうです)
私が所属する大学の例でいえば、教務に長くいた方が経理部の部長をしていたり、経理で経験を積んでいた方が、学務部(教務・学生・キャリア)の部長を担当したりしています。
なので、大学でのキャリアを長きにわたって思い描くのであれば、ある程度ジョブローテーションをすることを念頭に入れておきたいところです。
だからと言って、専門性が必要ないというわけではありません。
やはり、数字に強いのでデータ分析を駆使したIRができます、正確性には自信があるので経理ならだれよりもできます、概念の体系化に自信があってカリキュラムマネジメントの実践などの教学的な能力なら誰にも負けません、といった自分の強みに合った専門性を最終的には身につけておきたいところです。
まとめると、学生支援系・管理系などの複数の視点を身につけたうえで、自分の強みや経験が最も活かせるポジションを最終的に目指す、といったイメージです。
大学職員の役職から見る入職後の役割の変化
また、大学も、典型的な日本型雇用の企業と同様の役職があります。
そして、役職が上がれば上がるほど、学生さんとの接点が少なくなり、よりマネジメントや意思決定などの仕事の比重が高まっていきます。
平職員→主任→係長→課長→部長→事務局長、のようにステップアップしていくのが一般的です。
そして、残念ながら、大学業界では主任~係長くらいまではマネジメントをする機会はほとんどありません。あって後輩の指導くらいです。
そして、課長くらいでようやくマネジメント経験を積めるようになります。なので、係長くらいまでの役職は、経験や基本給などが異なる飾りみたいなものだと思って差し支えないと(私は)思います。
そのため、これも企業での就職と似ているかもしれませんが、現場の仕事から徐々にマネジメントや意思決定へとシフトしていくイメージです。
大学職員になりたい方の多くは、学生さんの生活をサポートしたい!と思って志望する方が多いですが、残念ながら経験を積むにつれて少しずつ学生さんと関わる機会は減っていきます。(部署によっては係長くらいまではたくさん関われます)
時代背景を踏まえて意思決定できることは今後の大学職員の必須条件
少し話は変わりますが、これまで以上に大学職員は時代の変化に対して敏感である必要があります。
なぜなら、大学間の競争が激しく、これから生き残りをかけて戦っていかなければならないからです。
その最も大きな要因は、やはり「少子化」です。日本では合計特殊出生率は長期的には減少の一途をたどっていて、具体的な子育て支援策にかけているため、子どもが増える見通しがまるで立ちません。
人口が減少し続けているのに比例して市場のパイも減り続けているため、国民所得などの経済規模も縮小し続けています。
人口が増えない限り、日本人は全体としてどんどん貧乏になっていくことを避けられません。ですから、これからは学費を捻出する余裕のない親世代がこれまで以上に増加していきます。
人口が減少し、家計も苦しくなっているのに、大学はずっと増え続けてきました。もはや有象無象で、これからは大学の廃業や経営統合などがどんどん加速していきます。
以上のような時代背景を踏まえると、大学の運営を担う教員や職員は、時代の大きな変化の潮流を知り、先の時代を見据えて意思決定していくことが欠かせません。
時代の変化には、たとえば以下のようなものがあります。
ここでは、時代の変化の中で特に大きなものをピックアップしましたが、重要なのは、時代の大きな流れを踏まえて、大学はどのようにかじ取りをしていけばいいのかを、一人ひとりが意思決定していく重要性が今後より一層増していく、ということです。
その意味で、社会への問題意識をより深く、より多角的に持てるかどうかが、これまで以上に問われると言えます。さらに言えば、そこから大学としてのビジョンやミッションを見出し、そこに自分の業務との関連性を見出して大学の進路を方向づけていけるような人材が必要です。
大学に求められるものの高度化
また、大学職員であれば知っておきたいことのひとつとして、「大学に求められる業務は日々高度化している」ということです。
たとえば、「カリキュラムマネジメント」「IR(インスティテューショナルリサーチ)」「ディプロマサプリメント」といった言葉を聞いたことがありますでしょうか?これらの言葉は、一昔前まではあまり使われていなかった言葉です。
ところが、ここ最近の中央教育審議会の答申や、大学の報告書などを見ると、こういった言葉は当たり前のように使われるようになっています。
そして、当然大学はこれらの概念に対応することが求められ、実行するための組織体制を整備し、形にしていることをエビデンスとして示していかなければなりません。
つまり、大学に求められていることはどんどん高度化しているのです。さらに言えば、大学がやらなければならないことは増え続けていて、減ることはほとんどありません。
その主たる要因は、行政の在り方に帰すると言えます。文部科学省などの行政の偉い人たちは、自分たちの任期の中で「こんな改革をしました」という実績を残し、アピールできる材料を創り出すことに躍起になっています。
そのため、どんどん新しいことをやりたがります。そこに「減らす」という視点は全く欠けているように私には思えます。
企業経営であれば、「減らす」「取り除く」ということができなければ、いつ沈んでもおかしくない船だと思うのですが・・・行政だとまかり通ってしまうんですよね。
話を戻しますが、大学の業務が高度化していることによって、大学職員の仕事量は増加し続けています。ICTが普及しつつあるのに、不思議な話です。
ですから、大学職員は文科省などの行政から降りてくる仕事を次々にこなしていく技量を獲得していかなければ、業務に忙殺されてしまいます。
また、問題は仕事量だけではありません。以前は「The 事務」と言えるような定型的な業務の比重が現在より高かったのですが、近年では、ただ事務的な業務をこなすだけでなく、大学の意思決定や新しい仕組みの創出など、より知識労働的な側面の比重が高まっています。
そのため、「カリキュラムマネジメント」「アドミッションポリシー」などの抽象度が比較的高めな概念を業務へと落とし込む国語力や思考力も欠かせません。企画力や実行力もより問われるようになってきています。
大学職員に求められるのは何よりも「協働する力」
大学職員の求人を見ていると、どの大学も「他者と協同する力」的な内容をまず第一に求めていることに気づかれるのではないでしょうか?
それもそのはず、大学の業務は一人で意思決定して一人で実行する、という場面がほとんどありません。大学としての意思決定は、教授会や分科会などの合議体によってなされるからです。
これはつまり、何かアイディアがあって実行するにしても、様々な人にお伺いを立てて、会議に通してようやく実現できる、ということです。
そのため、大学職員にとって、教員や職員などと良好な関係を築く「関係構築力」や、会議をスムーズに通せる「企画実行力」「文書作成能力」など、対人的な能力が何よりも重要であると言えます。
余談ですが、私はこの「協同」や「合議体」の側面が苦手すぎるので、企画や文書作成の段階でいちいち会議しなくてもスムーズに進むような準備を心がけています。
【まとめ】大学職員のプロフェッショナルとは?
ここまでの内容を踏まえると、私が勝手に定義づける「大学事務のプロフェッショナル」とは、以下のような人物像です。
・時代の変化を先読みして厳しい競争を勝ち抜くためのビジョンを描くことができ、
→少子化や情報化、国際化などの時代を踏まえて未来を描くことができる。
・思い描くビジョンを大学という合議体において実現するための高い対人能力を有し、
→頑固な人もたくさんいる大学という合議体の組織の中で、教員や職員に対して働きかけ、自分がなすべきことを実行に移せる対人能力。
・学生対応や経営管理などの一方的な視点だけでなく複合的・大局的な視野を持ちつつ、
→教務や学生などの学生対応的側面だけでなく、財務や人事といった管理的視点も併せ持つ。
・自分の強み・経験・スキルなどに立脚した自分だけの専門性を確立し、
→ジョブローテーションは念頭に置きつつ、最終的には自分の性格や強みに合った専門性を確立できている。
・事務的な業務に加えて高度化する業務を形にする意思決定能力や実行力を兼ね備えている、
→事務を遂行するだけでなく、経験を積み、役職が上がるにつれて、より意思決定やマネジメントなどの概念的で組織的な業務を担えるようになる。
・大学の運営と、学生及び教員の福祉の向上の両方に資することができる事務職員。
→組織にも、学生にも、教員にも、全てのステークホルダーの幸福に貢献できる全体最適を実現できることが理想。
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