突然ですが、仕事などの場面で、以下のような言葉を言われたことがありませんか?
- ~しといてって、メールに書いてたでしょ?
- ○○の要件は、要項に書いてあるでしょ?
- そんなマニュアルに書いてあること聞かないでよ。
そして、このようなセリフを受けて、イラッとしませんでしたか?
私は、上に列挙したような言い方が好きではありません。自分でも絶対に使わないようにしています。
今回は、この「○○に書いてたでしょ?」がなぜ好ましくないのか、その理由と対処法について考察していきたいと思います。
メールに書いてあったでしょ?って言われたことはありませんか
会社の同僚や友人などの他者とコミュニケーションをする場面で、「それってメールに書いてあったでしょ?」「それは要項に書いてあるでしょ?」などと言われたことがありませんか?
たとえば、以下のような場面を想定しています。(大事な部分を赤字で示しています)
【メールにて】
○○事業部 各位
お疲れ様です。営業課の□□です。
先日より試作を繰り返していたスキンケア商品XXについて、ついに製品化の目途が立ちました。課題であった効果の持続時間について、細かな成分の見直しなどを行い、ついに最適な配分を探り当てることができました。その結果、朝XXを使用すれば、最大で24時間程度 効果を持続させることができるようになっています。競合のB社の製品と比較してもべたつきなどがほとんどなく、消費者への認知度を向上させることができればロングセラーとなることはほぼ間違いないと言える商品です。ぜひXXの魅力を直接感じていただき、○○事業部として総力を挙げて販売していきたいと考えています。
つきましては、来週の8/3(火)の14:00より、商品理解とマーケティング戦略立案の会議を開催したいと思います。営業課やマーケティング課だけでなく、できるだけ多くのみなさんに参加していただきたいです。当日はなんと、事業部長もお忙しい合間を縫って会議に参加してくださいます。残念ながら参加できない方は、□□までご連絡ください。
また、よりXXの魅力を予め共有し、より生産的な会議にするために、XXの簡易パンフレットを作成いたしました。ぜひ会議までにご一読いただき、疑問点やご意見などを会議の場でぶつけていただければ幸いです。
>△△様
恐れ入りますが、会議室の予約をお願いいたします。
今回は、当事業部の約1年半ぶりの新商品で、何が何でも成功させたい一大プロジェクトでもあります。みなさまの積極的な参加を心よりお待ちしております。
【後日オフィスにて】
□□:△△さん、いよいよ明日はXXのお披露目だね。絶対に良いものだから期待しといてね♪ところで、会議室は無事予約できたかな?△△:え、会議室!?何のことですか?明日は××事業部が使用するってさっき言ってましたよ、□□:ええ!?会議室を予約してってメールに書いといたじゃないか?明日の会議どうするんだよ・・・
このメールの例では、「>△△様 恐れ入りますが、会議室の予約をお願いいたします。」と書いてある部分がきちんと伝わっていなかったことが問題となっています。
その他にも、世の中では「○○に書いてあったでしょ?」と、メールや要項などに記載されているのに読み手がその細部を把握していない事例は少なくありません。
なぜ、「書いてあるのに」が起きてしまうのでしょうか?次章で詳しく考察していきます。
○○に書いてあったでしょ?が起こる受け手側の理由
メールなどに書いていたはずなのに、伝わっていない・・・このような残念な事態はなぜ繰り返されてしまうのでしょうか?
書いてあるのに伝わらない理由には様々な要因が考えられます。
ここでは、メールや要項などを読む側の要因について、以下の2点に絞ってご紹介したいと思います。
- 人は入ってくる情報量をセーブしているから
- 知識は実際の事例に当たらないと腑に落ちないから
人は入ってくる情報量をセーブしている
書いてあることが伝わらない第1の原因は、人間は入ってくる情報量を無意識のうちにコントロールしているからです。
この「入ってくる情報量をセーブしている」部分がよくわかる記述を、放送大学のテキストより引用したものが以下です。
私たちの身の回りにはいつも無数の情報があふれている。情報処理アプローチの考え方に基づけば、人間は、こうした情報を感覚器官から入力し、必要な情報処理を加え、行動として出力するわけだが、コンピュータと同様に人間の情報処理能力にも限界がある。つまり、私たちを取り巻くすべての情報を処理しようとすれば、オーバーフローしてしまうし、情報処理には時間や労力がかかるので、常に限界まで情報処理をしていれば瞬く間に疲弊してしまう。そこで人間は、特別な理由がない限り、必要最小限の時間や労力のみをかけ、限りのある認知資源を無駄遣いしないよう努めていると考えられている。これが「人間は認知的倹約家である」という比喩の意味するところである。
――森 津太子・向田 久美子「心理学概論」(放送大学テキスト)より引用。
つまり、人間は周囲の外的刺激のすべてを感覚として受け入れてしまった場合に、入ってくる情報量が多すぎてオーバーフローしてしまうのです。
このような情報過多による負担を少なくするために、人は知覚する情報量を無意識のうちにセーブしています。
このような人間の無意識的な知覚の節約傾向は、「認知的倹約家」であると表現されています。
たとえば、有名な「ある色に着目して風景を見ると、いつもは気づかないその色に関する情報がたくさん入ってくるようになる」という話を聞いたことがありませんか?
この例のように、人間は普段入ってくる情報量をセーブしていて、視覚や聴覚などの感覚器官をあるテーマにフォーカスすることではじめて、外界にある情報を集中的に収集することができるようになるのです。
そして、メールに書いてあることが全て伝わらない原因も、この人間の認知的倹約家としての側面によるところが大きいと考えられます。
考えても見てください。現代のビジネス環境は、ひと昔前と違って、たくさんのメールを処理するのが当たり前になっています。
全てのメールを一つひとつ隅から隅まで熟読していたら、情報量が多すぎて処理が追い付かなくなってしまう可能さえあります。
そのため、人は受け取ったメールの内容のうち、重要だと思う部分をスキャンするようにサッと読んでいるに過ぎないのです。
これは裏を返せば、メールの内容をきちんと伝えるためには、簡潔に、重要な内容が目に留まるように書くことが求められるということに他なりません。
知識は実際の事例に当たらないと腑に落ちない
書いてあることが伝わらない別の要因としては、読んだり聞いたりして得た知識であっても、実生活で活用しないとなかなか覚えられないという人間の性質あげられます。
今度は、大学の学生便覧の例で考えてみましょう。
学生便覧には、施設のことや試験のこと、公欠のことなど、学生生活を送る上で重要な手続き事項が網羅的に記載されています。
ところが、大学に入学して学生便覧を全ページくまなく読む学生などほとんどいません。
軽く目を通したとしても、細部については実際にその場面に出会っていないので、イメージが湧かず記憶に定着していない場合がほとんどです。
たとえば、学生便覧に「忌引き」(親族等が亡くなること)に伴う公欠の記載があったとしましょう。
学生が実際に忌引きの場面に直面しても、学生便覧に書いてある要件や手続きなどについて、覚えていないのが普通です。
なぜなら、学生便覧に目を通しているときには、親族の方が亡くなることなんて想定していないからです。
そして、学生は実際に親族の方が亡くなって初めて、忌引きに伴う公欠の要件や手続き事項を実際の経験と紐づけて理解することができます。
以上の例のように、ある事柄について読んだり聞いたりしたことがあったとしても、それをすぐに頭の中から引き出して使えるかどうかは全くの別問題なのです。
むしろ、実際の事例に当たって見ないと、知識は使えないことがほとんどです。
ですから、メールや要項などに記載してあったからといって、それを読んだ人が当然のように対応できると考えるのは期待しすぎであると言わざるを得ないでしょう。
「書く」と「伝える」の違いを理解する~書き手側の理由~
書いてあるのに伝わらない理由として挙げた「人は入ってくる情報量をセーブしているから」「知識は実際の事例に当たらないと腑に落ちないから」は、受け手側の要因です。
しかしながら、書いてあることが伝わらないのは、実は発信する側に原因がある場合が多いのです。
書いてあるのに伝わらない場合に発信者側に欠けているのは、「書く」ことによって読み手に「伝える」という意識です。
上の会議におけるお部屋の予約をお願いする例で言えば、メールの真ん中にいきなり強調するでもなく依頼の文章をはさみ込んでいます。
果たして、このような書き方で読み手はきちんと書き手の意図した通りに行動してくれるでしょうか?
読み手の側によほど時間に余裕があって、受け取ったメールを細部まで熟読してくれるのであれば、目的が果たされる可能性はもちろんあります。
しかしながら、読み手が多忙であったり、自分にとって関係の薄い内容であると判断したりした場合には、書き手の意図したとおりに行動してくれることはないでしょう。
このような、「書いているのに読み手の行動を喚起することができない」事態を防ぐためには、メールや要項などに「書く」という意識から、読み手に「伝える」という意識への転換が必要です。
もちろん、意識だけではうまく「伝える」ことがむずかしいかもしれないので、次章では実際にどのように「書く」ことをすれば相手に「伝わる」のかを考えていきたいと思います。
「書いているのに伝わらない」を防ぐための「伝わる書き方」
では、上の会議室を予約するメールの例などを用いながら、読み手に伝わる書き方にはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。(もちろんここに書いたものが全てではないと思うので、ご意見やこんな書き方もある、というコメントも大歓迎です!)
引用して別メールで送る
これは特にメールで有効な方法なのですが、あるテーマについて送ったメールを引用する形で、別のメールとして依頼するという方法が考えられます。
会議室の予約を依頼するメールの例で言えば、以下のようなイメージです。
【タイトル】
8/3(火)14:00~会議室の予約をお願いします
△△様お疲れ様です。営業課の□□です。先ほどお送りしたXXのマーケティング会議に際して、現在 出先のため、以下の日程で会議室をご予約いただきますようよろしくお願い申し上げます。日時:8/3(火) 14:00~終日
会場:会議室
参加者:○○事業部のみなさん
目的:XXマーケティング会議のため- – – – – – – 転送 – – – – – –
○○事業部 各位
お疲れ様です。営業課の□□です。
先日より試作を繰り返していたスキンケア商品XXについて、ついに製品化の目途が立ちました。課題であった効果の持続時間について、細かな成分の見直しなどを行い、ついに最適な配分を探り当てることができました。その結果、朝XXを使用すれば、最大で24時間程度 効果を持続させることができるようになっています。競合のB社の製品と比較してもべたつきなどがほとんどなく、消費者への認知度を向上させることができればロングセラーとなることはほぼ間違いないと言える商品です。ぜひXXの魅力を直接感じていただき、○○事業部として総力を挙げて販売していきたいと考えています。
・・・後略・・・
以上の文章のように、タイトルや要件を別立てにして送ることで、読み手の当事者意識を向上させ、適切に伝わる可能性を格段に向上させることができます。
要件ごとに分割する
続いて、「要件ごとに分割して複数のメールを送る」という方法も考えられます。
今回取り上げたマーケティング会議の例で言えば、以下のような要件ごとに、メールを分割して送ることができます。
- XXのマーケティング会議を開催します
- XXの簡易パンフレットを作成しました
- 会議室の予約依頼
この方法は、テーマや読み手にしてほしい行動などが異なる時に、特に有効です。
先に示して列挙する
複数のトピックをひとつのメールに盛り込む場合は、番号を記す・箇条書きにするなどの方法でトピックを列挙した上で、トピックが複数に分かれていることを先に明示しておくとよいでしょう。
○○事業部 各位
お疲れ様です。営業課の□□です。
先日より試作を繰り返していたスキンケア商品XXについて、3点連絡事項がございます。それぞれ対象となる方はご確認くださいますようお願い申し上げます。
①XXのマーケティング会議を8/3(火) 14:00~開催します
・・・内容・・・
②簡易パンフレットを作成しました
・・・内容・・・
③【△△様】8/3(火) 14:00~会議室の予約をお願いします
・・・内容・・・
タイムリーに伝える
上の「知識は実際の事例に当たらないと腑に落ちない」の箇所で述べたように、人は実際に必要としているタイミングでないと、情報を活用することができるようになりません。
これを踏まえると、メールや要項などで事前に伝えてあることであっても、実際にそれを必要とするであろう人に必要なタイミングで改めて提示する、というのも非常に有効な方法です。
たとえば、あなたが大学の職員として、「インフルエンザで欠席します」という連絡を受けたとしましょう。
この場合、「学生便覧の15ページに記載されている手続きに従って、○○日までに教務課窓口に「公欠届」を提出してください。」のようにタイムリーに伝えてあげると、学生はの自分に必要な手続等を当事者意識を持って理解することができます。
別の方法で伝える
これは当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、伝える手段を変えることも時には大事です。
わかりやすい例として、定年後に嘱託で働いている高齢者の方(Aさん)のケースを考えてみましょう。
Aさんは、施設・設備を管理してきた経験を買われ、会社の設備担当として日々これまでに培ってきた技術を発揮しています。
そんなAさんは、PCは使えないというほどではないですが、十分に使いこなせているとは言いがたい状況です。
PCなどの機器に意識があるため、仕事中もほとんどPCを開きません。メールなど言わずもがなです。
Aさんのような方に、一声メールで連絡をしたとして、果たして「伝えた」と言えるのでしょうか?
きっと多くの方は”NO”と答えると思います。そのため、Aさんに連絡事項がある時は、口頭で伝えたり、簡単なメモを渡したりするのが良いでしょう。
このように、伝える相手が違えば、伝えるための手段を変える必要も時には生じます。
メールを送ったんだから見ていない方が悪い!と切り捨てるのではなく、伝える相手のリテラシーなどに気を配りながら伝達方法を工夫する余裕が持てるといいですね。
「伝えよう」という姿勢が欠けている相手にどう対処する?
ここまででただ「書く」だけでなく、「伝える」ことが重要であることを強調してきました。
恐らく、このページをご覧いただいているような方は、十分に「伝える」という意識を持っている、もしくは持とうとしている方なのだと思います。
しかしながら、残念ながら、社会には「書いてあればそれでよし」と思っている人も少なくありません。
そのような人には、どのように対処していけばいいのでしょうか?
まずもって大切なのは、ただ書いてあるだけでは相手に伝わっていない場合もある、ということを理解してもらう必要があります。
そのためには、今現在の相手の書き方がどうなっていて、どのような書き方をすれば自分が助かるのか、ここまで提示してきた対処法などを交えながら伝えてみてはいかがでしょうか?
上司などにやんわりと伝えて指導してもらう、といった方法も考えられます。
もちろん、このページのリンクを送って、相手に読んでもらうのも効果的かもしれません。笑
いずれにしても、ただ書いてあるだけでは大変な事態を招きかねない、という自覚を持ってもらうことが何より大切です。
何のために「書く」のか?「伝えたい」気持ちを大切に
そもそも、私たちは何のために「書く」のでしょうか?
たとえば、恋文を書く時の気持ちを考えてみてください。あなたは何のために恋文を書きますか?
きっと、あなたがその相手のことを心から好きだという思いを「伝える」ためなのではないでしょうか。
では、お仕事のメールなどはどうでしょうか?
きっと、相手に依頼したいことや感謝の気持ちなどを「伝える」ために書いているはずです。
何かを「書く」からと言って、それが必ず相手に伝わるわけではありません。
時には重要な部分が相手に届いていなかったり、誤解を招いたりすることもあるでしょう。
それでも、何かを「書く」という行為の裏には、ほぼ間違いなく「伝えたい」何かがあるはずです。
せっかく書いたのに、その文章に込めた思いが伝わらなかったとしたら、とてもとても残念なことです。
ですから、私たちは「伝える」ための「書き方」を学ぶのです。
思いが良く伝わる文章は良い書き方から―お互いが読む人のことを想いながら、思いやりを持って文章を書くことが、心の通うコミュニケーションの第一歩です。
このページで私が綴ってきた思いが、読んでくださった方や周りの方の思いが伝わる意思疎通になることを切に願っています。
コメント